養成所の合格後、リモートでのオリエンテーションが行われた。この日の気分は最悪だった。この頃私は、うつ状態が続いていたのだ。
画面越しに話す担当者を見ながら、なにか他人事のように話を聞いていた。そして今後のスケジュールの話しになった。客前でネタを披露する時期を聞かされた途端、私は急に怖くなった。自分が芸人になろうとしていることに、改めて自覚させられたからだ。私はなんてことをしてしまったんだ。この私が客前で芸を披露するなんて…。胸がザワッとした。突然の緊張。嫌な緊張感だった。
そうして、初めて養成所に行く日がきた。この日もややうつ状態だった。オーディションで出会った人以外は、その日が初顔合わせだ。それなのに、現場にちゃんとたどり着けるかの不安以外は、無の感情だった。
養成所に到着し、控室に向かった。すでに人が集まっていた。どこに座ろうか迷っていると、オーディションで少し仲良くなった女の子を見つけた。向こうも気付いて声をかけてくれた。正直かなりホッとした。知らない人だらけの空間にいるのはすごく苦手だ。
女の子と会えて嬉しいはずが、うつ状態が邪魔して上手く笑えない。そして話せない。
今ふと思い出したのだが、この日は上下黒の服装だった。私はあまり黒の服を着ない。特に上下黒は滅多にない。恐らくこの日の精神状態がそうさせたのだろう。別に黒はダメだと言っている訳ではない。自分の状態を確認するために取り上げただけだ。
改めて教室に移動し、ガイダンスが行われた。ここでようやく、これから芸人としての活動が始まるんだという実感がわいてきた。
後半では、早速教官による授業のようなものが行われた。コンビを組むとしたらどういうネタにするか、隣の人と話し合ってみてください、といった内容だ。同期との初対面かつ、初コミュニケーションだった。
その人は人見知りをしない目立ちたがりの性格、といった印象だ。これは助かった。話しているうちに、不思議と少しずつ元気を取り戻していった。それは、この相手が私のまとっている黒いモヤを吸い取ってくれている、そんな感覚だった。
そもそも芸人になろうとしている人間が集まっているのだから、普通は皆、明るい性格なのでは?と思った。が、そうでもなかったという事が、後になってわかった。