では、40代になってからのオーディションの話しに戻すとする。
地元の夏祭りの予選オーディションを受けるのは、大きなトラウマを抱えてから約20年ぶりだった。
決めたからには練習するしかない。恐怖心のピークはいつも応募する瞬間だ。応募した後は、一旦ゲームのミッションをクリアしたような、ちょっとホッとしたような気持ちになる。そして、心の奥底で、やっと挑戦できるという嬉しさが、わずかながらにこみ上げてくるのを感じる。それでもやはり、恐怖心の方がまだまだ勝ってはいる。
こんなに恐いのに、表現する時のイメージがどんどん湧いてくる。不思議だ。きっとこれが、本当は挑戦したいという本心の現れなのだろう。
そうしてオーディションの日を迎えた。会場に着くまで、それほど緊張はしていなかった。オーディションが久々過ぎて、自分でも結果が想像できなかったのだ。
会場に着いてみると、思った以上に規模が小さかった。参加者の年齢層も高い。
正直かなりホッとしていた。公開オーディションだったため、お客さんと共に会場が和んでいた。自分の番が来るまで、私も楽しく観させてもらった。しばらくは緊張せずにいられたが、自分の番が近づいた途端、急に緊張が高まった。
くそっ!やっぱり緊張するのかよ!と昔を思い出して恐くなった。
そして出番が来た。緊張が高まったまま音楽がかかった。声は出るのか…。
出た!歌詞がモニターで見られたのもラッキーだった。緊張でだいぶ喉が詰まってはいたものの、一応出てはいるし、振り付けも飛ばさずにできている。終始緊張したまま出番は終わった。
20年ぶりのオーディションは、無事に最後までやり遂げることができた。
良かった。本当に良かった。
観覧席に戻り、ホッとした気持ちでいっぱいだった私は、せっかくなので最後まで観ることにした。そこで嬉しい言葉を頂いた。私の発表を観ていた方に、「面白かったよ。」と言ってもらえたのだ。しかも1人ではなく2人にも言われたのだ。これは嬉しい。上手く歌えなかったとしても、楽しんでもらえたなら上出来だな、心からそう思えた。